多能工化は、限りある人材を最大限に活用するための手法として注目されています。ひとりで複数の業務をこなせる能力を持つ多能工を育成することにより、労働環境の改善や、生産性の向上が期待できます。そこで今回は、多能工とは何なのか、また多能工化の導入メリットとデメリットをご紹介いたします!
多能工とは
「多能工」とは、ひとりで複数の業務や作業を行うこと、および複数の技能や技術を持った作業者のことを指します。もともと多能工という言葉は、工場などの生産現場をはじめ、主に製造業の間で使用されてきました。 より生産性の高い製品を作るため、ひとりの従業員が複数のラインを担当する場合に使われ、現在では製造業以外にも、さまざまな職種や業務で合理化の手法として活用されています。
単能工との違いは?
多能工の反対にあたるのが「単能工」です。単能工は、ある定められた仕事のみを行い、ひとりでひとつの業務を担当する、ひとつのスキルを専門に業務を行う人のことを指します。従来は単能工が一般的で、今でも多くの業種で単能工が残っています。しかし近年では、ニーズに合わせてマルチスキルを活かす事ができる、多能工がより求められるようになってきています。
多能工化のメリットとは
多能工を教育・育成することを「多能工化」と呼びます。多能工の育成に成功すれば、その時々で、忙しい工程に労働力を集約させるなど、従業員の負荷を平準化し、生産性の向上が実現できます。ここでは、多能工化のメリットについて解説していきます。
①仕事量の平準化ができる
多能工の最大のメリットとして、業務負荷が均等になる点が挙げられます。限られた人員のなかで、繁忙期やイレギュラー対応をカバーし合いつつ業務を進められるようになるので、仕事量の平準化ができ、従業員への負荷を軽減できます。
②業務を安定的に進められる
単能工が集まる職場では、自分の担当以外の業務ができないのと同時に、他の人がその業務を行うということもできません。そのため休暇が取りにくくなるなど、担当者の負担が増えることや、担当者が急病や急用で休んだ時に、業務が滞るといったおそれがあります。 それに対し、現場の多能工化が進めば、たとえ欠員が発生しても、その業務をフォローできます。現場の多能工化は、業務を安定的に進めるための、リスク管理としても有効です。
③多角的な視点を持って仕事に取り組める
多能工化を取り入れることによって、自分の担当外だった業務にも、必然的に関心を示すようになる上、スキル取得後は、多角的な視点を持って仕事に取り組めるようになります。 複数の仕事を兼務することにより、さまざまな立場におかれる人の気持ちを理解できるようになり、より主体的に物事に取り組めます。
多能工化のデメリットとは
多能工化には上記の通り、多くのメリットがありますが、運用を誤ってしまうと、結果的にデメリットが生じてしまう可能性もあります。ここからは、多能工化のデメリットや運用上の注意点を紹介します。せっかくの多能工化が無駄な取り組みにならないよう、ぜひチェックしておいてください。
①多能工育成までに時間がかかる
誰しも、初めからいくつもの業務を一度に習得することはできません。複雑な現場であればあるほど、OJTなどの教育が必要となり、育成に時間と費用がかかる可能性があります。その時間と費用もきちんと考えたうえで育成をしなければ、結果として無駄になってしまうこともあります。 まずは、従業員の向き不向きなどをしっかりと考慮したうえで、任せられそうな業務から少しずつ教えていくなど、育成方法も考えながら行う必要があります。
②業務の無駄が発生しやすい
多能工化は、一時的に業務の無駄が発生しやすくなります。ひとりの従業員が複数の仕事を行うことにより、かえってコミュニケーションコストがかかるなど、不慣れが原因で無駄な工数が発生してしまうおそれがあるからです。 また多能工化を行うためには、複数のメンバーで情報共有を行わなければならず、進捗状況の把握に時間がかかってしまいがちです。データの一元化をはじめ、個々の業務状況を、常に確認できる体制を整えることが重要です。
③適正な人事評価制度を構築する必要がある
従業員を多能工化する際には、多能工に適した人事評価制度が必要不可欠となります。複数の仕事を掛け持ちで行っている場合、従来の人事評価では、全てのパフォーマンスをきちんと評価しきれないケースが出てきます。 また営業のような、数値で成績を出せる部署とバックオフィスでは、評価の指標も異なります。どのような業務・従業員であっても、正当な評価を行えるような方法を模索し、適正な人事評価が行えるよう制度の構築を行いましょう。
④離職につながる可能性がある
マルチスキルを得るためには、必然的に多くの業務を経験しなければならず、そのため「入社時に希望していた業務内容が違う」というクレームにつながりやすく、結果的に離職へと発展するといったおそれがあります。 多くの従業員は、自分が挑戦したいと思う業務以外の仕事を任せられることを嫌がります。 特に、入社直後の従業員に対して多能工を求めてしまうと「当初の契約と話が違う」「求人広告には書いていなかった」といったトラブルに発展することも考えられるため、注意が必要です。 多能工化を行う際には、従業員としっかりコミュニケーションをとり、双方が納得した状態で進めていくことが極めて重要です。
まとめ
多能工を育成することによって、従業員の負荷を平準化したり、柔軟な人材配置が可能になったり、また企業全体の生産性の向上が実現できます。さまざまな業界で効果を発揮する有効な手法ですので、ぜひ機会に、多能工化の導入を検討してみてはいかがでしょうか!